MagiaSteam
断じてお見合いパーティではないと思うよ(国王談)




「えっと、これはなにかな?」
 渡されたパルプ紙を見て『イ・ラプセル国王』エドワード・イ・ラプセル(nCL3000002)の頬を汗が伝う。
 ご丁寧にもきのこの絵柄(これはきのこタワーだろうか?)が書かれた便箋には三人の少女(というには憚られるものもいないことはないのだが)の連名が連ねられている。
「陳情書にございます」
 『長』クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)は片眼鏡の位置を直しながら何事もなく答える。
「チキチキエドワード様お見合いレースって書かれてるけど」
「其のとおりでございます、陛下」
「その、有り体に言わせてもらうけど、なんだい? これは?」
「陳情書にございます」
「うん、聞いたよ?」
「エドワード陛下、貴方は連日届けられる見合い写真にも目を通さず、お断りの毎日」
「今はそれどころじゃないからさ」
「今だからこそお世継ぎが必要なのです。この先なにがあるやも知れぬ世界」
「そうだね」
 エドワードの緑の瞳が陰る。
「3年後の白紙の未来は今も変わってないと聞いた。もし子を成して、その見えない未来を見せるのが、私は怖いのだろうね。
 もちろん、そういうことではなくて、この戦争の3年間で私が死んだら、そのかわりはって話だろう?
 それもわかっているさ。私は私が「誰」であるか。どういう役目をもって生まれたのか。何をするために生まれたのかは知っているよ」
 国王の嫡男として生まれた青年には自由はない。その生まれによって彼の役割は決められてしまっている。
「エドワード陛下……」
「でも、クラウスの気持ちもわからなくはないさ。
 ……さすがにお見合いレース? ってのには賛成はできないけれど、そうだな、自由騎士たちと貴族を呼んで、北方戦の戦勝の宴を開くのはどうだい?
 そのお見合いとかそういうのは抜きにして。ちゃんとした貴族も含めた祝勝会をやっていなかっただろう?
 まあ、嫌がる貴族はいるかもしれないが、自由騎士たちには面通しはさせてあげたいからね。彼らは着実に武勲をあげている。それは事実だ。私はね、それを、堅物な元老院にもしらせたいのさ。彼ら自由騎士たちが、ノウブルも、亜人も混血も関係なく素晴らしい私の騎士で有ることをね」


†シナリオ詳細†
シナリオタイプ
イベントシナリオ
シナリオカテゴリー
日常σ
■成功条件
1.王の主催する宴を楽しむ
 ねこてんです。
 ブレインストーミングより
 ローラ・オルグレン(CL3000210) さん、非時香・ツボミ(CL3000086)さん、ジュリエット・ゴールドスミス(CL3000357) さんの陳情により、この依頼が作成されました。

 戦勝の宴です。

 イ・ラプセルの貴族の皆様も来ています。王城の大きな広間で行われるパーティです。
 音楽家に演劇、豪華な料理にダンスといろいろ行われます。
 詳しくは下の方に。

 貴族のみなさまがたくさんいらっしゃっています。
 自由騎士の皆様に友好的な方もいればそうでもない方もいます。
 そうでもない方は難癖をつけてくるかもしれないので、行動にはお気をつけください。


 具体的には参加する貴族は以下の面々--------------------------------------------------------

 元老院の政治家のお歴々。
 基本的にどの派閥の方々もいらっしゃいますが、エドワード・クラウス派と穏健派が多いです。
 ノイマン派の皆様は少なめです。自由騎士が来るときいて、おやすみしたようです。
 基本的に彼らは談笑しております。

 エドワード・イ・ラプセル
 クラウス・フォン・プラテス
 
 イ・ラプセルの王と宰相様です。どんな人物化は皆様の知るとおり。
 多少の無礼はなんとも思いません。
 エドワードは下記ダンスに誘えばきてくれます(社交ダンスの腕はそれなりです)
 談笑にも応じてくれますのでご自由にどうぞ
 ガチでお見合いにきて頂いてもかまいませんよ。

 ブランディーヌ・イ・ラプセル
 前王妃です。エドワードのお母さんです。穏やかな方です。

 クレマンティーヌ・イ・ラプセル
 エドワードの妹さんです。15歳。恥ずかしがり屋の王女です。
 だいたいカーテンの影に隠れています。

 クラウディア・フォン・プラテス
 彼女も一応普通に貴族ですよ? エドワード、クレマンティーヌ兄妹とは本当の兄妹のように育ってきています。
 クラウディアに頼めばクレマンティーヌとお話できます。

 アルブレヒト・キッシェ
 穏健派筆頭。 わりと朗らかなひとがらのキッシェ・アカデミーの現学長です。

 オスカー・フォン・ノイマン
 奴隷制復活を求める派閥の筆頭です。貴族主義ですので、基本的にノウブル以外とは口を聞かないでしょう。亜人・混血に話しかけられたらいやいや口は聞きます。

 亜人たちが暴れればそれをネタに騒ぐことは間違いありません。
 むしろそれを狙っている節もあるので、話しかけたノウブル以外は辛辣なことを言われるでしょう。
 がんばって我慢してください。

 ----------------------------------------------------------------------------------------------
 彼らと話す話さないは自由です。

 その他参加NPC
 フレデリックさんはお仕事中ですので無理ですが、それ以外のNPCは呼べばだいたい
 どこでもきてくれます。

 フレデリック・ミハイロフ
 警護にあたっています。

 ヨアヒム・マイヤー
 バーバラ・キュプカー
 ダンスしたりご飯たべてます。

 カシミロ・ルンベック
 じつは彼、オラクルではないので参加はさせてもらっています。
 普段は13番も一緒にいるので王城までは入れませんが、本人だけであれば入ることが出来ます。
 13番はオラクルですので、お留守番しております。

 佐クラ・クラン・ヒラガ
 ミズーリ・メイヴェン
 カシミロさんたちと談笑しています。誘われればダンスにも参加します。
 ミズーリさんはともかく佐クラは相当ダンスは下手くそです。

 アンセム・フィンディング
 めっちゃ端っこで早く帰りたい感じになってます。ああ、描きかけの絵画があるんだ。
 ほっておいたらいつの間にか寝てるかもしれません。

 ムサシマル・ハセ倉
 アーウィン・エピ
 めっちゃ食ってます。もりもり食ってます。
 アーウィンは他国亡命者であることもあり、政治家に観察されまくっているので結構ビクビクしています。
 ムサシマルは食うことに忙しいです。ダンス? そこにいるどヘタレミミズクが踊るっていってるでござる。
 アーウィンは誘えばダンスには応じますがめちゃくちゃ下手ですのでそうとう足を踏まれると思います。

 基本的に亜人組は政治家の近くには近づかないように配慮はしています。

 
・できること。
 基本的にあっちもこっちもと行くよりは、一つに集中したほうがよいリプレイになると思います。

 【食事】
 豪華な食事が用意されています。お土産に持ち帰りは少しならかまいません。

 【ダンス】
 貴族のみなさんやNPCとダンスしたり、PCの皆様同士でダンスしたりしてお楽しみください。
 
 【談笑】
 貴族のみなさんやNPC、PCたちと楽しく会話をしてみてください。
 何かを尋ねれば答えれることであれば答えてくれます。
 貴族のみなさんは身分にとてもこだわりますので、ご注意を。(エドワード・クラウス派のみなさん(ご家族も含む)はそこまで気にはしませんが、貴族に話しかけるということはどういうことかをご注意ください)

 【警備】
 警備は必要なのです。
 
 【演目】
 演劇や、歌などを披露する方はこちらへ。
 幅広く募集されています。


 服装は基本的には礼服でお願いします。礼服がない場合は貸出もあります。
 どうしても礼服は着ないということも可能ですが、貴族の心象はあまりよくないです。

 ちなみに国王様はああ言ってますが、普通にエドワード王にお見合いしてもらってもOKですよ!!
 PC同士でのお見合いもご遠慮無く。
 貴族のPCさんはお望みであれば、貴族のお嬢さん、もしくはお坊ちゃんを見繕わせていただきます。

※10/31追加注意。

 貴族でも亜人・混血の場合は結婚相手としてのご紹介は難しいかもです。
(貴族の方はお世継ぎの話の婚姻を結びます。両者の混血については混血種が子供を作れないこともあり、世継ができないのです)
 イ・ラプセルの貴族諸侯は大体においてノウブルです。(世界観イ・ラプセル参照)
 エドワード王の治世においては、亜人の貴族候もいつかは生まれるかもしれませんが、まだ未来のお話です。
 
 ですが、貴族としてのご友人ということであれば大丈夫ですので、そのような対応になる可能性もあります。
(エドワード・クラウス派の貴族の皆様は、わりと亜人にも興味をもっている方もいます)

 自由騎士においては一応騎士候の立場は有しています。
 

・指定書式

 【食事】(向かうパートをかいてください)
 【一緒に参加する方のフルネームとID/若しくはチーム名/NPC名(名前だけでIDはなくていいです)】
 【行動】

 書式に従っていない場合は描写されない可能性が高くなります。
 

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・獲得リソースは通常依頼難易度普通の1/3です。
・特定の誰かと行動をしたい場合は『クラウス・フォン・プラテス(nCL3000003)』といった風にIDと名前を全て表記するようにして下さい。又、グループでの参加の場合、参加者全員が【グループ名】というタグをプレイングに記載する事で個別のフルネームをIDつきで書く必要がなくなります。
・NPCの場合も同様となりますがIDとフルネームは必要なく、名前のみでOKです。
・イベントシナリオでは参加キャラクター全員の描写が行なわれない可能性があります。
・内容を絞ったほうが良い描写が行われる可能性が高くなります。
・公序良俗にはご配慮ください。
・未成年の飲酒、タバコは禁止です。
状態
完了
報酬マテリア
0個  0個  0個  1個
16モル 
参加費
50LP
相談日数
7日
参加人数
59/100
公開日
2018年11月06日

†メイン参加者 59人†

『ペンスィエーリ・シグレーティ』
アクアリス・ブルースフィア(CL3000422)
『商人魂(あきんどそうる)』
ディルク・フォーゲル(CL3000381)
『教会の勇者!』
サシャ・プニコフ(CL3000122)
『慈悲の刃、葬送の剣』
アリア・セレスティ(CL3000222)
『イ・ラプセル自由騎士団』
シノピリカ・ゼッペロン(CL3000201)
『おちゃがこわい』
サブロウ・カイトー(CL3000363)
『果たせし十騎士』
ウダ・グラ(CL3000379)
『水銀を伝えし者』
リュリュ・ロジェ(CL3000117)
『こむぎのパン』
サラ・ケーヒル(CL3000348)
『か弱いうさぎさんですよぉ』
ティラミス・グラスホイップ(CL3000385)
『ReReボマー?』
エミリオ・ミハイエル(CL3000054)
『管理人さん』
リド・エンピス(CL3000340)
『やっぱりぷりけつまみー』
タマキ・アケチ(CL3000011)
『ティーヌの騎士を目指して』
海・西園寺(CL3000241)
『日は陰り、されど人は歩ゆむ』
猪市 きゐこ(CL3000048)
『命を繋ぐ巫女』
たまき 聖流(CL3000283)
『戦場に咲く向日葵』
カノン・イスルギ(CL3000025)



 華々しい装飾に、荘厳な音楽。ひっきりなしに歌姫が唱う。
 出される料理はどれも一品級である。シャンバラとの交戦における戦勝会であるパーティーが、イ・ラプセル国王、エドワード・イ・ラプセルの主催でとりおこなわれた。

「というわけで、エドワード殿下。私と踊っていただけないでしょうか」
 談笑するエドワードに話しかけるは際どいラインの白いドレスを纏い、髪を結い上げたエルシー・スカーレット。
 身寄りのない彼女はこの格好の機会を無碍に過ごすことはしない。
「ああ、エルシーか。見違えたよ。今日はずいぶんと美しいね」
 対するぽややんとしたエドワードは存外なほどにそんな気障なセリフが似合う。エルシーに手を伸ばし一礼するとダンスホールに踏み出す。名乗る前に名を呼ばれたことに心臓が跳ね上がった。
「あの私なんかのこと」
「なんか、なんて心外だな。私の大切な自由騎士だ」
 エドワードは踊ったことのないエルシーを的確にリードしていく。
「一歩進んで、そう。ここでターン。最初がうまくないのは当然さ」
 言われるがままにステップを踏み、ついでに流れるようにエルシーは彼の足も踏んでしまう。
「あわわわ」
 そんな少女に国王はウインクしてしーっ、と口元に指を立てた。少女の胸の高鳴りは緊張なのだろうか? それとも。

「陛下も覚悟を決められるが良い時でしょうに」
 そんな二人を視界にいれながらテオドール・ベルヴァルドが宰相クラウス・フォン・プラテスに話しかけた。
「まったくもって同意だ。かくいうベルヴァルド卿。君の細君が亡くなってどれほどだね?」
 クラウスのメガネが光る。
「はは、宰相殿には敵いませんな。もう、3年になります」
「もうそんなに経ったのか」
「後を追うなど出来ませんし、揺れておりましたが潮時でしょう。そろそろ亡き妻も許してくれるでしょう」
 失うことで空いた心の穴は、新しい縁で緩和できることもあるだろう。
「陛下の憂慮を少しでも拭えるのであれば、このテオドール。ヴェルヴァルト、駒となることもいといません」
「卿の忠心、相わかった」
 クラウスは側近に言葉をかける。ややあって見目麗しい少女にも近い令嬢がつれてこられた。
「彼はテオドール・ヴェルヴァルト卿だ。彼女はメイマール伯爵の次女のカタリーナ嬢である」
「その、よろしくおねがいします」
 頬を薔薇に染めた令嬢は優雅なカーテシーをテオドールに向ける。メイマール伯といえば王都でそれなりの冶金会社を営む者だ。
「あの、宰相殿?」
 言うなれば娘のような年齢の令嬢を充てがわれたテオドールは目を白黒させる。いや、令嬢に不満があるわけではないが寡婦男にこんな……話が違う!
 宰相殿はすでに別の貴族と話し始めている。テオドールは不安げな少女に微笑むと一曲踊り始めるのであった。

「おうさま」
 ダンスを終えたエドワードの元に向かうのはローラ・オルグレン。すわ色仕掛けか? と思う諸兄も多いだろう。
 普段とは印象の変わるドレスに身を包んだローラはするりと腕をからめエドワードの隣に立つ。
「やあ、ローラ、疲れたのかい?」
 まるで貴族たちから逃げるように歩を進める彼女は安全圏(おうさま)に逃げ込んできたのである。
「ねえ、王様、正直結婚に興味はないんでしょ? ローラもだけど」
「はは、お見通しだったかい?」
「正確には興味をもつまいとしてるんでしょ? アクアディーネ様の影響は根強いみたいだよねぇ」
「いや、そういうわけじゃないんだ。君は誤解してる。アクアディーネ様は私にとっては姉のようで母のようで、妹のようで……」
「そういうとこだぞ」
「ごほん、まあ、ともかくとして、意外と君は話しやすいんだね」
 ローラはごまかすエドワードの鼻先をつんと突く。
「王様、そういうとこもだぞ」
 それはカモになりやすいのだと、ローラは言外で告げた。

 カツン。あまり慣れないヒールの音がやけに大きく響いた。
「やあやあ、アークライトのお嬢さん。この前の姿より随分としとやかだねえ」
 そんなヒルダ・アークライトに壮年の男性が話しかけた。
「アルブレヒトのおじ様、ご挨拶にいこうと」
「そりゃあ、光栄だね。アークライトのご一族は? ご一緒じゃないのかい?」
「えーと、その、今は一人でいたくて。あたしもそろそろいい年ですので、こういう場だと……」
「そうだ、ヒルダ。ちょうどいい縁談があってね?」
「おじさま!」
 アルブレヒト・キッシェは声をあげる少女におちゃめに舌をだす。冗談にしてもほんとに、心臓に悪い。
「それにしても」
 ヒルダとアルブレヒトは来客を見渡す。王族が開催したとは思えないその宴には、ノウブル以外の多くの種族が犇めいている。
「こんな宴、イ・ラプセルを置いて他に決して存在しないでしょうね」
「ああ、私もはじめてみたよ」
 それは新時代を予感させるようなそんな光景。ヒルダとてノウブルだけの宴にしか参加したことがない。そんな、戦争が紡ぐ団結が嬉しくもあり、そして皮肉と感じる。
「わたしはね、こんな混沌とした、学問のようなこの光景を正直好ましくおもっているんだ」
 ヒルダが『穏健派』の政治家でもある学長の顔をみる。
 学長は内緒だけどね、そう小さくつけたした。エドワードの政策はいうなれば乱暴なものだ。故に反対派との間に緩衝になる派閥も必要だったのだ。
 
 ナナン・皐月は、可愛い手作りのハートの金細工のついたブローチを配る。
 このブローチをもったものに声をかけやすくするためだ。
 恋を橋渡しする旧古代神話の愛の神の使いのように。
 とはいえ周知が行われていなかったこともあり、うまくはことは進まない。
 しかし、貴族の少女たちの目にはそのブローチはとても新鮮に映ったようで、ナナンのまわりを少女たちがとりまいている。
「これをもっていたら友達や恋をみつけられるんだよ」
 ちょっと怪しい商売人のようになったが、少女たちには好評だったようである。
 その効果についてはまた別のお話。

 ほんとはね、行きたくない。けどね父親がね、圧かけるの。ほんとすごい圧。
 自分はほら、マザリモノだからいろいろ無理だって……ひぃん……。
 あまり慣れない礼服で身を包んだリド・エンピスは父の圧力に負けてほそぼそと食事をしている。おいしいんだろうけど気持ち的に味はわからない。参加したからこれでいいでしょう? とはいっても目立つよねえ、しってた。
 貴族たちの好奇の視線にどっと疲れる。近寄ってはこないけど、噂してるのもわかる。ほんと、これが嫌だったんだってば!
 おとなしく礼儀正しく。そうすれば見る目ちょっとくらい変わるよね。むりかもだけど。
「ねえ、あなた、何者なの?」
 礼服の裾を引っ張りながら尋ねる少女がいた。貴族の娘だろう。
「えっとぼくは、リド・エンピス、女郎蜘蛛の……マザリモノだよ」
 そういえば怖がって逃げると思った。しかし少女は、この手はいっぱいあっていろんなものがもてるの? いろんなものに手が届くのと矢継ぎ早に問いかけてくる。
 リドはしどろもどろに答えると、少女はうれしそうに頷く。やがて少女は親に呼ばれ其の場を去る。
 めっちゃつかれた。
 後にリドは知ることになる。其の少女はアルブレヒト・キッシェの孫娘であると。

「もてなくてなにがわるい!」
 警備中のエミリオ・ミハイエルはとうとう我慢の限界をこえ叫んでしまう。
 そりゃあ彼女いない歴年齢のまま浮いた話ひとつなくここまできた。
 自由騎士になれば少しはモテるんじゃ? っておもったこともあった! だけど甘くはないのだ。
 恋愛だってしたいし、結婚願望だってあるのだ!
 なのにモテない。
 生活は充実して幸せだとも思う。だけどね。やっぱり彼女欲しい。かわいいおよめさんほしい。
「モテなくてなにがわるい……」
 二度目のエミリオの叫びはまるで地の底から響くような、そんな声だった。
「まあまあ、まあ、気持ちはわからなくもありませんが」
 サブロウタ リキュウインもエミリオの言葉に頷く。
「しっかりと警備をおこなっていいところをみせればもしかしてモテるかもしれませんよ」
「本当?」
「いやわかりませんが」

 自分一人であれば。
 片付き先なんてどうでもいいが、彼女がゼッペロンの家名を背負っているのも確か。
 お行儀よくしなくてはならないのに、この食事の芳醇な香り、我慢できるものではない。
 アアアンナトコロニアーウィンドノガー。ロックオン!(ぴこーん)
 シノピリカ・ゼッペロンは一人で肩身の狭そうなアーウィンに声をかける。
「困っておられるな? そうだろう、そうにちがいない」
「え、いや」
「困っておるな?」
「はい」
 秒で流されるアーウィン・エピ24さい。
 亜人とキジン! 新しい時代の種族が仲睦まじい様子をみせつける、これぞゼッペロン流クレバーな食事のありつき方!
 もとい、新しい時代を思わせるアピール大作戦!
「アーウィン殿、食うておるかの?」
「くってるって」
「あーんしてほしいかの?」
「いらんわ!」
 この作戦によりゼッペロン家の面目躍如、おまけに珍味に舌鼓。正直宴は気が重かったけどこれさいこうじゃの! ぱないの!
 我が忠誠は祖国と陛下に!
「あんた俺をだしにしてるだろ」
「なんのことかの?」
 シノピリカの手はとまらない。

「いやあ、弾除け係がこんな晴れの宴に参じようとは」
 王侯貴族が居並ぶは壮観なりと、サブロウ・カイトーはごきげんだ。
「あらあら~お見合いときいてきたのですが、戦勝会ですかぁ? あらまあとんだ間違いを」
 ふくよかなほっぺを揺らしながらシェリル・八千代・ミツハシががっくりと首を折る。そろそろ身を固めようとおもったのだが趣旨が違うのであればなんともかんとも。
「どちらにせよ祝の席であることはかわりません、たのしみましょう、ミツハシ卿。アマノホカリのご縁ということで。
 そうそう、和菓子のお店を営んでるとか。よいですな、ええとてもいい」
「あら、サブロウさんはお菓子に興味がおありですか?
 アマノホカリのお料理は素材の味を活かしたシンプルなものがおおいですがお菓子は見目麗しいものがあるんですよぉ
 ねりきりなんておかしは花やどうぶつなどのかわいらしくもおいしいものなのです、うふふ」
「なるほど、僕はあんこ、こしあんが好きでして。えっとすあまはご存知でしょうか?」
「すあま?」
「故国でも地元に根づいた品ですからなあ。ええ、もっちりした食感とほんのりした甘さが幸せにさせてくれるひとしなで」
「まあまあ、すてきですねぇ~。甘いもので幸せになるのはすてきですぅ~」
「お菓子談義もたのしいですなあ。おっと熱くて渋いお茶がのみたくなりますね」
「ええ、ええ。サブロウさんもぜひうちのおみせにきてくださいな。お茶もご用意しますので」
 アマノホカリのお菓子好きのお話はおわりそうにもない。


 ティラミス・グラスホイップはエドワード・クラウス派の貴族達に話しかける。
 警戒されると思いきや、意外にも普通に迎え入れられた。
 ティラミスはこの機会にと、前々からの疑問を問いかける。
 曰く、なぜ亜人の解放に賛成をしたのか。
 答えは簡単だ。新しい未来に興味があったから。ノウブルと亜人は子供は作れる、然し其の先に未来はない。
 絡み合うことができるのに未来を作れない種族。
 それでも手を取り合うことはできるのだと知ったから。誰しもが奴隷が正しいものだとは思ってはいない。
 貴族は旧体制にしがみつくものだとおもっていたとティラミスは率直に答える。
 それじゃ新しい未来にはつながらないと、貴族はいった。
 どこに興味をもったのか尋ねれば、子供が耳に触れた。すごくくすぐったかった。けれど悪い気はしない。
 でも私達のように思うものはそれほどいないとも告げられた。それはそのとおりだろう。
 けれど、そういったヒトがいなければ新しい未来はない。それを気づかせてくれたから国王の国政に賛成しているのだと続ける。
 そんな彼らの後ろには使用人である着飾ったケモノビトが誇らしい笑顔を浮かべていた。
 ノイマン派はそういうように新しい流れを拒み旧体制を重んじる派閥だ。新しいものを嫌うものはどこにでもいると、彼らは悲しげな顔でティラミスに応えた。

「うまいでござろう?」
「うん! こんな柔らかいパンはじめて食べた」
「(もぐもぐもぐもぐ)」
 グリッツ・ケルツェンハイムとグリッツ・ケルツェンハイムのふたりはムサシマル、リサ・スターリング、リュリュ・ロジェとともにひたすらごちそうを食べる。
 というか全く遠慮というものをしらないムサシに合わせて、他の者も負けるかと食べ続ける。
 グリッツは貴族たちの視線がきになってしかたない。だから食べることでごまかしている。お行儀がどうのと最初は思ったが、それもムサシマルにあわせることにした。
「くえるときにくうのがもののふでござるよ!」
「もののふ? よくわからないけど、うん。わかった」
「そこのガリ、腹が破裂するくらい食っとくでござる。ヒトの金でくう飯はうまいでござろうもん」
 タダ飯ぐらいと言われると思っていて気後れしていたリュリュはその言葉になんとも微妙な気分になる。
 とはいえヒトの金でくう飯がうまいのは間違いない。
「作法とかしらないからな」
「お行儀ってなんでござるか? くいもんじゃなければどうでもいいでござる」
 その言葉に随分気が楽になった。
「わかったよ、食うぞ! はらいっぱいな! 珍しいもんに挑戦してやる!」
 半ばやけくそでくった食事は本気でめちゃくちゃおいしかった。小さく畳んでいた翼が其の美味しさに少し解放されていくのはしかたがないというものだ。
「イーイー、ロジェ、それとグリッツ? お腹いっぱいごちそうたべなきゃね!」
 リサはさすがに少しだけお上品にとおもって、礼服を汚さないようにとそろそろと口に運ぶ。
 貴族って考えることがおおすぎてめんどくさい。ごはんくらい気軽にたべたいのに。
 マナーを気にしない男性陣とムサシマルがすこしうらやましい。
「多少汚してもかまわんでござるござる」
「ほんとに?」
「まじだよもん」
 なら、と。リサはぎこちないながらも思いっきりたべることにする。こんなにおいしいんだもの、堅苦しくたべてちゃもったいない。楽しく食べなきゃもったいない!
 
「ほらあんた、もっとおたべ! たべないからそんなほそっこいんだよ」
 最初こそは食事に舌鼓をうっていたトミコ・マールだが、いつしかその行動はいつもの通りになっていく。
 普段はトラットリアで食事を提供していることもあり、出されるだけではなんだか妙に居心地が悪い。
 遠慮をしているような子の前に食事がたっぷりのせられた皿をどんどんとおいていく。
 挙句の果てには足りなくなった料理をボーイに伝え、世話をやいていく。
 つまりは、平常運行のトミコであった。
「もう、おなかいっぱい。グリとムサシ、すごいな」
 それでもまだ食べ続ける彼らをみてイーイーはひといきをつく。
(貴族はいつもこんな豪華な食事と生活をしているのかな)
 そう思うと何故胸のおくがちりちりとする。その感情はなにかわからない。自分たちはいつも飢えているのに。
 イーイーはもちこんできた布袋にやわらかいパンを詰め込む。
 孤児院の子どもたちに食べさせるために。それができる自分が少しだけ誇らしい。
 オラクルであることを誰かに感謝する。其の誰かはよくわからない。多分神様なんだとおもう。
「イーイー、僕も手伝うよ」
 口の端にいっぱいのソースをつけた友達が布袋にいれる食事を吟味してる。
 なんとなくそれが、すこしだけそれが嬉しく感じた。


 サラ・ケーヒルはドレス姿で慣れないダンスを踊り続ける。
 そんなに踊ることはないかもと思ってはいたが、以外にも自由騎士に興味をもつ貴族は少なくない。
 足元をふらつかせながらサラはダンスを踊る。
 聞かれることにはすべて真摯にこたえた。これが自由騎士団の立場を向上させるものであるのだとおもえばやる気も出てくる。
「はい、みなさんお国のために一生懸命で」
「この間も、シャンバラを退けて!」
 サラのアピールロビー活動は続く。それが実を結ぶかどうかはわからない。
 だけどわからないと言ってそこで諦めてしまえば終わりだ。だからサラは踊る。

「……ふ、ふふ。お見合い相手募集されているということで参りました、陛下」
 ロングのウィッグに紫のロングドレスがそのスレンダーなボディによく似合う。
「えっと君は……タマキだね。礼服とはいったけど……まあいいか」
「おおっとバレてしまいました」
 わかりやすくバレバレなその女装姿のタマキ・アケチはうっとりとした顔でエドワードを見つめる。
「一瞬キレイな女性がダンスの誘いにきたと思ったよ。せめて声色は変えてくれ」
「残念ながら、それはそれは残念ながら。うふふ、私の身は世継ぎを授かる事の出来ませんが…敬愛する陛下の望む女性像が気になります」
「私の好みかい? そうだな。芯がつよくて、真っ直ぐな理想家で、でも頼りないところもみせるような……」
「ふふ、はい、はい」
 エドワードの言葉を聞くたびにタマキの表情は輝いていく。
「ふ、ふふ、お話いただきありがとうございます…!参考にさせていただきましょう、ふふ…!」
「えっ?! なんの参考にするの?」
「私は凛々しく気高き陛下が愛おしいです、ふふ……」
「そ、そうなのかい? それは嬉しい、な?」
「もっといろいろ、お役にたてるようにがんばりますっ……!」
 そのいろいろの詳細は聞かないほうがいい、国王はそう判断した。
 
「ああ、麗しき女神在りし国 夢のまほろば 我が祖国

 ああ 空を 海を 地を行く者が 共に平和に暮らす国

 其はイ・ラプセル 我らが誇り 我らの希望 偉大な王の住まう国」

 舞台からはカノン・イスルギの美しい歌声が聞こえる。
 彼女の歌はエドワード派の貴族たちから拍手でもって、迎えられる。

「今 我らが女神と王の加護を受け 立ち上がりしは自由騎士

 国を守り 人を護り いざ進め 明日の希望を掴む為♪」

 歌姫たるやのその美声は周囲に笑顔を齎す。少女の笑顔につられ、貴族たちも微笑む。
 謳い終えた少女はとんと舞台から降りると
「こんどうちの劇団で上演するお芝居の劇中歌だよー。興味があったら是非観にきてねー♪」
 ちゃっかりと宣伝もする。
 とある貴族が手をあげる、うちの劇場でも歌わないかと。
 カノンはその申し出に、あたふたと対応するのであった。

続く演目はミケ・テンリュウインのダンス。
「イ・ラプセル随一の踊り子(自称)! ミケの華麗な舞をとくとみよ! だにゃっ」
 蠱惑的で扇状的なダンスは貴族たちの目をひきつける。
 その視線にミケはにんまりと笑うと薄絹を一枚、はらりと艶めかしい動きで落とす。
 もう一枚、と思ったところで当局よりストップがでてしまう。
「にゃー! ミケの出番なのにーーー!!」

「アクアディーネ様っ!」
 でびるないやーで青の女神の名前を聞くたびに現れるのはナイトオウル・アラウンド。
 やけに血走った目で女神を賛美するたびに其の場にヒトはいなくなる。なぜだ。
「ああ、あのお方こそこのビオトープをお救いになられる至高にして唯一の女神です!」
 さっきまでアクアディーネ様かわいいって言ってた貴族の小僧っ子たちはいつの間にかきえている。
「アクアディーネサマ!!!!!!」
「アクアといいましたね!! ええアクアディーネ様は!!」
 カソックの男のテンションはマックスだ。
「いいですか? 女神とはそれすなわちアクアディーネ様! ヴィスマルクに居座る娼婦なんぞとは一線を画する存在です
 というか、次元がちがいます。ステージがちがうんです! いいですか? 女神とは蒼の女神の為のお言葉です!」
 シャンバラのジョセフも相当やばいけど、我が国にも相当やばいのがいたのである。
「アクアディーネ様ァアアアアア!!」

 その叫びにアリスタルフ・ヴィノクロフとランスロット・カースンが走り寄ってくる。
 重要人物が集まるこの宴、先輩後輩の自由騎士は警備に大忙しである。
 ある意味危険人物のカソックの男は両腕をアリスタルフとランスロットに抱えられて退場していく。
「アクアディイネサマアア!!」
 まだ叫んでる。
 ふたりは、はいはい、アクアディーネ様最高ですねとあやしている。
 ナイトオウルをおうちに帰らせた二人は、ホールに戻り、壁に背を預ける。
「そういえば、戦場はどうだった?」
 ランスロットが後輩にたずねる。
「なんというか、こう、もっと自意識を持つべきだったと言うか」
「そうか」
 ランスロットはアリスタルフの報告書は確認している。なんともコメントに困る状態ではあった。
 話題を変えるために王をみれば見目美しい女性に言い寄られていた。
「国王陛下もお年頃ゆえその手の話題からは逃れられんだろう。臣下としては然るべき令嬢と、とは思うが、ご選択は尊重すべきだと思う、ところでお前はどうなんだ?」
 ランスロットからアリスタルフに水が向けられる。
「俺よりランスロット先輩の方が結婚適齢期ですから。自分より優良物件ではありませんか?」
「……俺か? その必要はない。子供の頃に決められた相手が居るのでな。よく知らんが」
「そうだったんですか? どんなお方です?」
「今は仕事中だ」
 おもいのほか食いついてきてしまった話題は、馳走をありつく頃には根掘り葉掘りきかれるのだろうなと思う。
 ランスロットはどう答えるべきかとため息をひとつついたのであった。

 カーテンに隠れているのは海・西園寺(CL3000241)。
 ふと隣に気配を感じて振り向けば、金髪の同い年くらいの少女。その頭上には王冠が輝いている。
 イ・ラプセル王女、クレマンティーヌ・イ・ラプセルだ。
「あの、クレマンティーヌ様……?」
 少女は怯えた瞳で頷く。
「あの、西園寺もこういうの、苦手です。仲間ですね」
 海もこういった場が苦手だ。カーテンの後ろなんてとってもいい隠れ場所だ。だからこの王女の気持ちもよく分かる。
 ふたりはなんだかおかしくなってどちらからでもなくくすくすと笑い始める。
「みてください」
 海は指人形と子猫のぬいぐるみで即興劇をはじめるとすてき、と王女は微笑む。海はむしろ其の笑顔のほうが素敵だと思った。
 だから、もっと喜ばせようとおもって海は子猫のぬいぐるみをクレマンティーヌにあずけて劇を続ければ、王女はうれしそうに子猫で劇にのってくる。
 ややあって、クラウディアがカーテンの影の王女を呼びだす。
 王女は「またね」と、海に伝え、ぬいぐるみをかえそうとする。海は「さしあげます」と自然に言った。
 王女は嬉しそうに「ありがとう」といいカーテンの向こうに消えた。それが海にはちょっとだけ寂しかった。

「はじめまして、クレマンティーヌ様、こんばんは!」
 クラウディアに紹介されたクレマンティーヌにシア・ウィルナーグは元気よく挨拶する。
「こんばんは」
 小さな声であいさつすると王女はクラウディアの後ろに隠れる。
「ティーヌちゃん、だめだよ」
「でも」
 そんな王女にシアは微笑む。
「あのね、私も同い年なの。だから仲良くしたくて」
「……」
「イ・ラプセルはステキな国だよね。ボクはこの国が大好きだよ。だから守りたいんだ!
 ねえ、クレマンティーヌ様は外をみたことある?
 可愛いアクセサリーのお店とか美味しいスイーツや料理のお店、熊さんが店員やってる店もあるんだよ!」
 シアの言葉に子猫のぬいぐるみを強く抱きしめ、くまさん……と呟く王女。
「こんどつれていってあげるよ!」
 羨ましそうに王女は顔を輝かせるがそれはかなわないことだと表情を曇らせる。この少女は曲がりなりにも王族だ。もし現王であるエドワードが忌まれた場合、彼女がその責務を継ぐことになる。彼女にはエドワード同様自由はない。
「だったら、ボクが色んな場所の写真をとってきてみせてあげるよ。スイーツだってこっそりもってきてあげる」
 そのことばにクラウディアは聞かなかったフリをする。
「だからお友達になろう!」
 その言葉にクレマンティーヌは小さく縦に首を振った。

 次に王女に声をかけるのはカーミラ・ローゼンタールだ。
 央華大陸風のドレスの彼女の姿はありていにいえば珍しい。キラキラしたオーラに多少ひるむがマイナスイオンの効果で少しはおちつく。
「はじめまして王女さま! 私はカーミラだよ! ケーキ1個どーぞ! おいしーよ!」
 あっけらかんと持ってきたケーキを差し出す。
「カーミラ、びっくりしてるよ」
 声も出せない王女のフォローをクラウディアがする。
「あはは! ごめんね! そうだ! 今回の闘いでは私も結構頑張ったんだよー!」
「……だって、そういわれたらティーヌちゃん、いわないといけないことあるよね?」
「あ、あの、カーミラ、あなたの栄誉を嬉しくおもいます」
「ん? なんだか難しいね! どういうこと?」
「えっと、えらいね……って」
「えへへ! 王女様に褒められた! めちゃくちゃうれしい!」
 其の場でぴょんぴょんとはねる少女に王女は面食らう。主に胸部的な意味で。

「クラウディアちゃん、かぼちゃぷりんありがとうね」
 アリア・セレスティはクレマンティーヌと一緒にいるクラウディアにはなしかける。
 結い上げた髪にティアラ。青を基調としたバッスルのシルエットが美しいミニ丈のドレスのアリアにクラウディアは答える。
「いえいえ、どういたしまして」
 満面の笑みのクラウディアに反して王女はなんだか名状しがたい顔でアリアをみつめる。
『その、お察しします』『はい』
 その表情にそっと王女にテレパスをおくるアリア。
「あのですね! こんど、クレマンティーヌ様も含め、よろしければお菓子づくりしませんか?」
 まあプロには及ばないが、それなりのものは作れると自負はある。
 なによりクラウス室長に長生きしてもらうためにも! お菓子勉強会は開くべきだと思う。
「ところで、クラウディアちゃんって味見してるの?」
「ううん、味見はクラウスおじいちゃんの役目だから!」
 なんともはや、宰相殿は毒味担当の命令を愛しい孫から受けているようだ。

 ラメッシュ・K・ジェインは普段よりもよいスーツに身を包み、貴族たちと談笑する。
 接点、いわゆるコネクションというものは自分の人生において大いに役立つだろう。
 派閥を問わず、彼は会話し続ける。あちらこちらに。
 それは自分という存在を印象づけるためだ。
 今回の会において自由騎士という存在は貴族たちにとって随分興味深い存在である。
 故にかれもまた多くの質問攻めにあうのであった。

 舞台にはミルトス・ホワイトカラント。礼服に身を包み、豊穣の実りの感謝を神に捧げる賛美の歌を荘厳なるメロディーに乗せる。
 Glorious things of thee are spoken, Zion, city of our God;
 聖域拡張したその歌声は遠くホール中に広がっていく。優しく、歌姫の尽きせぬ愛と信仰が拡がっていく。
 この先の未来は戦乱に満ちたものになることは間違いない。
 たとえこの国のモットーが生きて帰ることだといわれていても、戦争はヒトを殺していく。
 だから聖女は祈る。祈りを歌に変えて。
 この女神アクアディーネの見守るこの愛しの祖国のさらなる発展を願って。
 其の思いは貴族たちにも伝わるだろう。
 そして、国王と、自由騎士たちにも。
 これからも立ち続けるための勇気となって。

 お見合いパーティ、うむ、悪くない。
 ごーまんっぽい言い方をしているが皆様にはすでにどういう人物かは理解されているボルカス・ギルトバーナーが、うんうんと頷く。
 最近実家の父上が身を固めろと煩いのだ。貴族はそういった柵がおおいのだ。だからこの場に参加した。
 結婚する気はないが。
 彼は強面でなおかつ、彼の家名はイ・ラプセルでは大きな意味をもつ。――首刈りのギルトバーナー。そういって揶揄されることもある処刑人の一族だ。
 そんな身の上で無理があるのだ、婚活なんて。
 とはいえ、彼も父親への義理は果たさなくてはならない。クラウディアをみかけると声をかける。
「やあ、クラウディア、ちょうど話をしたかったところだ」
「あー、ボルカスさん。今日の傲慢活動は成功してないみたいだね」
 ざっくりくるクラウディアに一瞬ひるむもはっはっはと傲慢(っぽいとじぶんでは思っているつもりの)な笑いでごまかす。
 なんだかんだでクラウディアとの会話は長くなった。
 後日、クラウディアちゃんに婚活を行うロリコンボルカス君という噂がまことしやかに広まるのだった。

 アリシア・フォン・フルシャンテはごきげんだ。
 可愛いドレスにヘアメイクもしてもらった。メイク担当のメイドができましたと伝える。
 鏡をみればキラキラしたお姫様のような自分がそこに映っている。
 アリシアとて少女だ。別人のような自分の姿にはしゃいでしまう。
「これやったら白馬の王子様にも声かけてもらえるんちゃうの?」
 そのこころの声が思わず口にでてしまう。
 くすくすとメイドが笑う。それがとても恥ずかしくなってしまったアリシアは今は隠れているカタフラクトの足のつま先をを床にあてる。金属の音が跳ね返る。こんな足じゃ貴族のお眼鏡にはかなわんかもだけど。すこしくらい、夢見てもいいかな。
「あー、アホなこと考えるんやめやめ! おいしいもんたべにこ!」

 ディルク・フォーゲルは貴族にフォーゲル商会を売り込む。
 見合い? そんなの後々。具体的には数年後とか、もっと先。
 金づる様もとい新規顧客をもとめあちらこちらに話しかけていく。もちろん卑俗なと言われ断られることもあるが、自由騎士という物珍しさもあり、数件の顧客をえることができた。
 ほくほくがおで歩を進めていると、カシミロ・ルンベックが声をかけてくる。
 張り付いた笑顔の恰幅のいいその通商連のトップはもみてでもって商売の話をなげかけてくる。
 ああこれは、うまいこと言って、わりとヘビーな取引を押し付けてくるのだと商人の勘がつげている。わーにんわーにん。
 ディルクもまた張り付いた笑顔で、うけこたえ其の場を後にする。
 取引自体を行うことは回避はしたが、どうにも一筋縄でいかない相手だと思うとともに、学ぶことはあったとも思う。
 「では」
 次の商売の話にうつろう。

「にーくーーーーーーーーーーーーー」
 教会のマザーから借りた可愛いドレスのサシャ・プニコフの狙いはひとつ。にくだ。
 にーーーくーーー!
 にくがうまいぞーーー!
 司祭からはくれぐれもおしとやかにといわれた。だいじょうぶだ。にく。サシャにくはできるにく女だ。
 そのにくくらいあさにくまえだ。にく。
 普段からおしとやかにくだが、いつも以上におしとにくなのだにく。
 少女は肉の楽園に放たれる。
 定番のステーキはもちろん、シュニッツェル、チキンフリッター、トマト煮込みに、ブルストー!
 まずはおしとやかに一巡。
 次におとなしく一巡。
 そしてこんどは厳かに一巡。
 肉への巡回はまだまだおわらない。


 
 アルビノ・ストレージは良い歌でしたねと、隣の貴族に話しかける。
 緊張はしているが礼服はきている。多少機械油の匂いはするものの、礼には則っているつもりだ。
「お兄ちゃんのうで、かっこいい」
 貴族の少年が興味深そうにするのを、指先にさわってあぶないと制する。
 キジン化はイ・ラプセルでも珍しくない技術だ。とはいえ貴族の少年にとっては珍しいものであるのは間違いない。これは? ここはどう動くの? などと矢継ぎ早の質問に、アルビノは丁寧に答えていく。

 もし私が魔女ではなかったら。魔女狩りがあたしの仇ではなかったら。
 宴の様子をみながらそんなIFを思うのはエル・エル。
 そうなったら、あたしに残るものってなに?
 虚空にきえてしまいそうな其の問に答えるものはいない。
 だから女はそれ以外にできること、歌を歌う。魔女と呼ばれる原因になったそれを。
 とはいえ、歌(それ)は嫌いではない。
 女は舞台にたち、純粋な『歌』を歌う。
 復讐も何もわすれて、恋のうたを。甘い、恋の歌。どこかで流行っていたその歌を。
 ――ああ、そういえば。
 恋の歌をうたうことで思い出す。あたしって初恋はまだだったわね。
 こいってどんなものなのかしらね。
 魔女の目が写すその先には――。

 (お見合いパーティねえ。いや戦勝会だっけか? まあいくつか戦いはあったけど、まあこれがまとめってことなのかね)
 ザルク・ミステルはおなじく途方にくれていた猪市 きゐこ。通称星影の美少女とともに食事をとる。
 ふたりとも見事にこの機会に貴族にコネをつくるという器用なことは思い当たらない。
「相方探しはあと50年は先でいいかなあ」
「そういってるうちに、いきおくれになるんだぜ」
「むきー! そんなことないのだわ! とはいえ子供には興味はあるわ。私の研究を子供が引き継いでくれたらいいとおもうのだわ」
 テリーヌに舌鼓をうちながら二人の談笑は続く。
「そういうもんなのかねえ? 意外にも結婚願望はあるものなんだな」
「ところでザルクさんは興味ないのかしら?」
 一瞬エールがむせ返りそうになったが、ザルクはギリギリで押し留めた。
「俺か、まあめぐり合わせがあればとは思うが、こんな場所では無理だな。元他国の傭兵が貴族様とお近づきにってのも嘘くせえ」
「なら自由騎士団の中では? いないのかしら?」
「ガツガツくるな、うーん、そりゃあ、おまえみたいないいやつ、やいい女は多いとはおもってるが」
「おもってるが?」
 興味津々のびしょうじょは続きを促す。
「ほんの些細なことでもさ、なにか決め手があればなー」
「だめなのだわ! そんな消極的じゃ!!」
「おい、きゐこ!! すでに酔っ払ってるだろう!」
「酔っ払ってないのだわ!」
 だいたい酔っ払いはそういう。
 
「佐クラ嬢、どうだい?」
 正装に身を固めたクマ、ウェルス ライヒトゥームは、同じくドレス姿の佐クラに話しかける。
 貴族がいるとはしゃげないから堅苦しいのはしかたないとして、ランクの高い食事と酒は楽しんでおこう。
 まあその肴にあの変わり者で、その、可愛いとおもっているあのうさぎさんに話しかけるのはそりゃあ当たり前の話なのだ。
「まあまあ、ウェルスさん、あんじょう、かせいではりますか?」
 はんなりとした声。
「まあ、ぼちぼちっていったところかな?」
「うらやましいわぁ。うちのとこ、あたらしい商品いれなあかんおもてますが、なかなか」
 お互いマーチャントであることもあり、会話はそんな世間話。
 ところで、このクマさん口説くつもりできたのに『話題はこう……なんかいい雰囲気になるので1つ』のぶん投げ方式。
「えーっとその」
 残念ながらそんなに甘くない。口説き文句は自分の言葉で。
 とはいえ、口説きはできなかったものの、わりといい雰囲気でお酒と食事は楽しんだのでした。

 アクアリス・ブルースフィアは観察している。
 王様のお見合い相手は……いそうでいない。話しかけられているのはみるが、どうにもからかわれてるだけにしかみえない。なんとも不敬なことだが、この国らしさだともおもう。
 貴族の令嬢が頬をそめ王様に話しかけながらダンスに誘う。あ、脈アリ。
 だけどだめだ。王様事態に興味がない!
 おなじようなことは何度もあった。貴族側はまあ贈り物はりっぱなものだったりしてるけど。
 大まかにおいては穏健派やエドワード派の貴族ばかり。流石にノイマン派は話しかけてはこないみたいだと思う。
 側室の話なんてけんもほろろ。そりゃそうだ。正室ですらいないのだから。
 あ、ノイマンがめっちゃ嫌味言ってるけど、陛下ったらあれ聞いてない顔だなってかんじだ。
 新しい派閥はないかとか穏健派だって一枚岩じゃないのかって思って観察した。
 新しい派閥はなさそう。穏健派はごく単純にどっちかにつきたくない、もしくはいい感じに流れた方につこうとしてる、そんなかんじの風見鶏だ。
 筆頭のキッシェはエドワード派よりにみえるけど。
 戦時中だから変な混乱は生みたくない。ヒトが手をとりあえる未来のために。水が高いところから低いところにながれるように。
 いつかそんな自然な未来のために。アクアリスは観察を続ける。


「お食事でなくてよかったんですか?」
 ジークベルト・ヘルベチカは、いつもの軍服を脱ぎ礼服に身を固めて妹の誘いに少々意地悪に答える。
「それだといつもの私ですもの」
 すこしだけ背伸びをした大人っぽいドレスをきたアンジェ・ヘルベチカは頬をふくらませた。
「レディ、今日はいつもより美しいですよ」
 そんな少女を愛おしく思い、少年はレディをエスコートすれば、レディは優雅なカーテシーで応えた。
「レディ、エスコートを承ります」
「これがデビュタントになるんですかね?」
「まだ私にはやりたいことがあるもの、お嫁に行くとしではないわ。お兄様こそお見合いはしなくていいんです?」
「俺はまだ騎士として国に尽くさねばヘルベチカ家の家名がなきます」
「なら、今日は、お兄さまだけの、お姫様よ。エスコート頼みますね、騎士様!」
「それでは姫君、無骨な騎士ですが、そこはご容赦を」
 ふたりは音楽に合わせてダンスをはじめる。堂に入った其のダンスのさなか足を踏まれるが、兄は気づかないふり。
「そういえば」
「なあに? お兄様」
「やりたいこと、とは?」
「ひみつよ、おしえてあげないわ」
 
「いらついているな、アン」
 他国のスパイの侵入を許さない。いやむしろ入ってきたらそれはそれで大いに暴れることができる。それは願ったり叶ったりだと
思っていたアン・J・ハインケルを見透かすようにフレデリックが声をかけた。
「顧問、べつにそんなことはないさ」
「ほおっておけば其のあたりの通行人に銃でも構えそうだったからな」
 そういって笑うフレデリックにバツが悪くなってそっぽをむく。
「其の鬱憤を晴らす機会はいくらでもある、戦争ははじまっているからな」
 そういった男の声は悲哀を帯びていて、さらになんだかわからない苛立ちがアンにふりかかる。
 だからアンは銃を担ぎ直し、向こうを見回りに行くと、城門のほうに向かった。

 壁の花、アンジェリカ・ジゼル・メイフィールドに、ヨアヒム・マイヤーが声をかける。
「ちょりーっす、こんなキレイな花が一人なのはオレが我慢できなくてね。どうかな? 一曲」
「ええ、おねがいいたしますわ。ごきげんよう。わたくしは、アンジェリカ。 アンジェリカ・ジゼル・メイフィールドともうしますの。 あなたさまのお名前をお伺いしても?」
「みんなのヨアヒム・マイヤーだよ」
 アンジェリカとて貴族の端くれ、青年の誘いに優雅に手を伸ばす。
「お見合いはしないの?」
 ヨアヒムの率直な言葉に、婚約破棄された少女は、傷心の身なのですわ、と応え頬をふくらます。
「まじかよ。こんなきゃわいいこが嫁にくるのを断るなんて、あいてバカだなあ」
「わたくしのからだは……機械ですもの」
「だから? 綺麗だとおもうよ、オレは」
 その肯定の言葉に、一瞬面食らうも、アンジェリカは薔薇のように微笑んだ。
「ふふ、すてきでございましょう? わたくしの、自慢ですの」

「かえり、たい」
 アンセム・フィンでィングはカーテンにかじりついて外を見る。窓に反射するはきらびやかな宴。なんで僕はこんなところにいるのだと、泣きたくなる。
「こんにちは」
 たまき 聖流に声を掛けられびくんと振り向くアンセム。
「あの、わたしも水彩画を描くので、お話ができればと」
 其の言葉にアンセムは普段眠そうな顔が急に目覚めたような顔に変化する。
「水彩ね、水彩もいいけど、油絵もいいんだよ。透明感こそはまけるけれど、重厚さについては」
「はい、はい」
 初めて話す相手。アトリエの彼は眠そうなのに、芸術の話になったら人が変わったようだ。
「私はヒトの構造を絵でも表現して理解することでキジンさんのメンテナンスを効率化できればとおもうのです」
 イメージを強くもつことがキジンひとりひとりの丁寧なケアにつながると信じて。
「なので、アンセムさんにその、ご教授いただけたらと前々から」
「あ、ああ、そう、そう、か。えっと、まあ、素描? がだいじ」
 突然しどろもどろになる。
「なるほど、えっと、アンセムさんの絵をみたいとおもいますが」
「ああ、えっと、まだ、僕は、描くときじゃない、から。今は、イマジネーション、たりない」
 アンセムの額を冷や汗が伝うがたまきはきづかない。
「なるほど~、芸術は奥がふかいのですね」

 貴族って面倒ね。お見合いもだけど嫌味に政治に派閥争い。まあ関係ないけど。
 ライカ・リンドヴルムは眼の前の豪華な食事に舌鼓をうつ。故郷ではこんな食べ物はたべたことなんてない。
 肉に手をのばそうとして止まる。軽い吐き気。肉、ヒト、肉、ヒトを殺した。殺した、きもちわるい、血。血。
 伸ばした手をフルーツに起動修正する。
「あら、貴方もダイエット?」
 バーバラ・キュプカーが声をかけてきた。
「いえ、そういわけ……そうね」
 追求されるのが面倒でそのまま答える。
「わかるぅ~、ダイエットは明日からとはおもってもこのカロリーの塊どもが憎らしい! だっておいしいんだもの! でも絶対明日のお肉に成長するのよ。
 あたしもそろそろ、草食べなきゃ、草。女ってめんどいわよね」
「うん」
 馴れ馴れしく話しかけてくる女にうまく答えることができずにライカは甘いプリンを選んで食べる。
「あら、甘い物がすきなの?」
「べ、別にそんなことはないわよ」

 母親の形見のドレスをきて。母親譲りの赤い長い髪をゆるく編み上げて。
 グローリア・アンヘルはアーウィンの前にたつ。
 少しだけ高いヒールがぐらぐらと揺れてなんとも不安定だ。まるで自分の心のように。
「グローリア」
「その、ダンス、踊ろうといえば、お前は逃げてしまうのか?」
 すこし自分に素直に生きてみようと思った。その一歩目。
 女は捨てた、そのはずだったけど、その心はどこか深いところで残っていた。
「あー、いや、俺田舎もんだしダンスなんてしらねーぞ?」
「男性と踊るのに憧れてたんだ」
「なら俺じゃなくて、うまいやつと踊ったほうがよくないか?」
「いや、最初だから、お前がいい。私もダンスは子供の頃にならったばかりだし」
 その願いを口にするのはだめだと思っていた。だけど勇気をだした。
「ああ、なるほどな! 下手くそ同士で安心したいってことか、いいよ、踊るか」
 だというのに! そうじゃない!
「そのとおりだ」
 にっこり笑って手を差し出されるのがやたら腹がたったから裏腹にそういってやった。失敗したふりをして思いっきり足をふんでやろうか。
 ぎこちないダンスが始まる。足を踏んでやるとおもったその前に踏まれた。ほんとに下手クソなやつだ。でも少しステップを踏んでいくうちにすこしはましになったと思う。
「あのな、私、すごく恥ずかしかったけど、笑った顔が可愛いって言われたの、結構嬉しかったみたいだ」
 グローリアはそう言って微笑んだ。
「お、そうか」
 すこしだけ頬をそめたアーウィンがそっぽを向く。そんなダンスがあるか。
「なあ、アーウィン」
「なんだ?」
「もし、いつか好きな相手ができたら……今度はおまえから誘ってやるといい」
「ん?」
「いや、なんでもない。なにも言ってない」


 
 マザリモノである自分がこんな場に縁があるとはおもわなかった。
 ドレス姿で髪を結い上げて。マグノリア・ホワイトはありていにいえばはしゃいでいた。本人は否定するだろうが、いつもより足取りが軽い。それは纏ったドレスのせいか、それとも宴の魔法か。
 お酒で火照る体を冷ましにバルコニーで休憩する。このドレス姿でからかったらアーウィンもヨアヒムも随分とあせっていたなと、笑えてくる。
 風が体を冷やしていく。
「おっと、先客かな?」
 声に振り返ればキッシェアカデミー学長、アルブレヒト・キッシェが逆光に浮かぶ。
「アカデミーの学長……」
「ああ、そのとおりだ。お嬢さん」
 そう呼ばれることに違和感を覚えるがそれはしかたない、今はドレス姿の令嬢だ。とまれ、このイ・ラプセルにおける学術最先端にいる人物が話しかけてきたのだ。このチャンスを逃すわけにはいかない。
「結論からいいうよ。魔術研究会を立ち上げてほしい」
「ほう?」
「まだこの国にも、僕達が知らない知識を持つ者も多いと思うんだ。だからそういった研究をする機関がほしいとおもっていたのさ」
「我らがキッシェアカデミーは学ぶものに広く門戸をあけているよ」
 学長は嘯く。
「アカデミーに来たまえ。君の願いはかなうかもしれないよ」

「まあまあ、可愛らしい自由騎士さんだこと」
 前王の王妃であるブランディーヌ・イ・ラプセルは、ヴァイオラ・エマ・バンベリーとフーリィン・アルカナムに笑顔を見せる。
 フーリィンは見事に着飾り貴族のようである。先程すれ違ったアーウィンなどは彼女だと気づいてすらいなくて、手をふれば、真っ赤になってそっぽをむいていた。あとでからかってやろう。フーリィンはそう思う。
 とはいえ、この衣装レンタル代はだせませんよ? と言い始める友人にただ可愛く着飾らせてあわよくば貴族に見初められて貴族の奥方になって自分は侍女兼相談役に就職できたら楽なのになーとか決してヴァイオラは思ってはいない。ほんとに。ほんとだってば。
 そう、就職。就職なのである。バンベリー家を近く出る身である令嬢であるヴァイオラは就職先を求めているのである。医薬品の研究だけではないのだ。
 王家とまでは高望みはしないがそれなりの家の侍女として仕えたいのだ。
「陛下、女主人として理想とされる女性と国のあり方をお聞きしてもかまいませんか?」
「そうね、これからきっと女性は強くなっていくのでしょう。今は男性によって占められているような分野もね。そうなると素敵だと思うわ。 国についてはそう、平和になってほしい。其のためにはあなた達にも苦労をかけるのでしょうね」
(……まさか前王妃さまのところへ就活(?)に来るとは)
 ふんわりと微笑むフーリィンは内心気が気ではなかった。笑顔が引きつってくる。こんな偉い人の前に、私アウトローですよ!
 焦りがみえたのがバレたのかこっそりヴァイオラから足を踏まれた。
「いったーーーー!」
 口をひらいたらあら不思議。深層の令嬢の魔法がとけ、アウトローらしい一面がでる。ああ、やばい! と前王妃をみれば穏やかにころころと笑っている。
「えへへ」
 田舎少女のような愛想笑いを浮かべるこの友人に貴族の奥方は無理だと、ヴァイオラはため息をついた。

「ハセエピ」
 礼服に身を包んだカスカ・セイリュウジは食事をするムサシマル・ハセ倉とアーウィン・エピに話しかける。
「おお、カスカ殿。ご健勝でござるか? あ、飯食うの忙しいでござるもん。そのヘタレミミズクとダンスでも踊ってきやがれそうろう」
「つうか俺たちをまとめて呼ぶな! ムサシは口調を守れ!」
「いつの間にやら随分と仲睦まじくなったようで……私とのことは遊びだったんですね?」
 しれっと無表情でよよよと袖を目元にもっていくカスカ。
「あのな! お前とも何もないだろ!!」
「あの熱い夜を忘れたんですね(夏だったから暑かっただけ)、そうやってムサシも散々弄んだ挙げ句捨てるんですよ」
「まじでござるか? あいつさいてーだな」
「お前らの方が俺を弄んでるし、適当言いすぎだろ!!」
「というか、女性をダンスにもさそえないんですか? ほんとヘタレですね」
「ああ、もう! わかったわかった、カスカサンダンスオドッテクレ」
 アーウィンは渋々カスカをダンスに誘う。
「嫌ですよ。だってこの料理美味しいんですから、ね? ムサシ」
「ね、カスカ殿でござるよ」
「まじで、お前ら……」
 ため息を付いて下がったアーウィンの背が誰かに当たる。折の悪いことにオスカー・フォン・ノイマン其のヒトである。
 確かに彼ら亜人は貴族に近づかないように気をつけてきた。
 然し彼本人が近づいてきたのなら話は別だ。
「小汚い脱走兵のケダモノがいるぞ。国王もなんだ、こんな臭いものを連れ込んで。これだからこの王政は」
 ノイマンは隣にいるノウブルの従者に彼らに聞こえるようにこれ見よがしに騒ぐ。王政に対してなんとも不敬な言葉ではあるが、彼とてポリティシャンであり、イ・ラプセルでも古くからの貴族である。彼に口出しできるものは少ない。
「……申し訳ありません」
 アーウィンはその侮辱に唇を噛み締め耐える。当のノイマンはその言葉に返事もせずに延々と亜人の悪口を言い続ける。
 カスカとムサシマルは気にした様子もなく食事を続けている。が、二人の眉根にシワが寄っているのは否めない。
「ノイマン卿、其の程度で。彼も悪気があったわけではございません」
 フォローするのはオスカー・バンベリーだ。
 ノイマン派閥に付き従い、警備を続けていたのだ。ノイマンとて貴族主義をこじらしてはいるがそうそう積極的に騒ぎを起こしたいとおもっていなかったが、事あるごとに近くを通る亜人たちへ悪口を聞こえるように繰り出すのだ。
 其のたびにオスカーはフォローしてきた。
 自由騎士を騙り評判を落とすようなものは幸いにもいなかったが、苦労の連続である。
「へへっ、マリアっていいます。オスカーさんに挨拶できて光栄だ。どうぞ使ってやってくだせえ」
 スーツ姿のマリア・スティールもまたその騒ぎに気づき入り込んでくる。
 貴族というのはなんとも面倒で息苦しい。大好物の肉だって味がしない。もったいない。
「キジンか。其の若さでオールモストか。なんとも世知辛いもんだ。これも今の王政が……」
 とにかく叩けるものは何でも叩く、そんなノイマンにうんざりしつつもマリアは相槌をうつ。
「オレ、学がねえバカだからよくわかりませんが、すごいと思います」
「とにかく、あちらの食事が美味と聞きました」
 オスカーとマリアは目配せしあって連携し穏便に済ませようとする。
「おう! アーウィン・エピ! 飯がうまいなあ!」
 ことさら声をあげて近づいてくるのはマザリモノである非時香・ツボミだ。
「マザリモノまで……この奴隷階級が!」
「ノイマン殿!」
「てめぇ!」
「おい、アーウィン我慢しろ。我慢のしどころだ」
 周りの自由騎士含め、現場に緊張が走る。オスカーがツボミを制しようとするが、ツボミの目の奥の輝きに逆に制される。
 マリアはつかみかかろうとするアーウィンを必死で止める。
「おうおう、そちらの貴族様は元気だなあ!」
「貴様、下等種族の分際で!」
 「あのな、今までさんざん石だの刃物だのを向けられてきたマザリモノが其の程度の嫌味で揺らぐわけなかろ? もっと魂を砕くくらいの悪口を編み出さんか」
 ツボミはいけしゃあしゃあと煽る。ツボミはこの場にいる亜人、そしてマザリモノへの攻撃を自分に集めたかった。そうすれば、他の者が楽しく過ごせると思ったからだ。
 ばしゃり、と。
 ノイマンが手に持っていたワインをツボミにかけた。ツボミの礼服にはワインが染みこみ、もう、使えないだろう。
「ずいぶんいいワインを飲んでいるものだ」
 ツボミはぺろりとその頭から垂れるワインを舐めた。
「貴様、覚えたぞ」
「私はもう忘れたがな」
 ノイマンは従者にわめきながら去っていく。オスカーは焦った表情でノイマンをなだめながら付き従う。
「やりすぎたかな」
「ああ、やりすぎだ、どういうつもりだ?」
「面白そうだったからおちょくった」
 本心を隠し;、いけしゃあしゃあとツボミは答える。
 胃痛で眉根をよせたクラウスがツボミの後ろにたっている。青筋が額でひくひくと揺れている。
「我慢しろといったのであるぞ。非時香・ツボミ。この後の政治がどうなるか。わかっているのか?」
「……」
 ツボミは答えない。自分がやったことは悪いことだとは思っていないからだ。
「3日間の謹慎を言い渡す。宴からも退場してもらう。いいな?」
 ツボミは答えない。
「だが」
 騒ぎながら当たり散らすノイマンの背中を見て、クラウスの広角が上がる。
「子気味はよかったぞ。政治についてはこちらがなんとかする。それが仕事だ。君は自由騎士団だ。個人であって個人ではない。それを心に止めておきたまえ。しかしノイマン卿への手前それなりの対応をしなければ、示しがつかない。故に謹慎だ、いいな」
「仰せのままに」
 ツボミは、国防騎士団によって連れて行かれる。その背中にアーウィンは声をかけようとして、マリアに制され、そして口を噤んだ。 

 この宴で最も緊迫していた場所がある。
 それはここだ。
 テーブルをはさみ真剣になりすぎてむしろそれ怖い顔だよっていうジュリエット・ゴールドスミスとその緊張に耐えられずもうアンパンのことしか考えれないアダム・クランプトンが向き合っている。
 少数の出歯亀がロマンスを聞きつけみにきているが、これはだめだと思う。だってもうこれ見合いというか完全に果たし合いだもん。
 なぜ。
 なぜせかいからあらそいはなくならないのだろう。
 なぜあんぱんはまるいのか。なぜあんぱんはまるいのか。なぜ。ああ、なぜだ。
 こたえてくれ、風よ。
「アダムっ!!!!!!!!!!!」
「はっ!」
 あまりの事態に意識をアンパンの花のさく花畑にむけていたアダムはびくりと体をすくませ背筋を真っ直ぐにする。
 
『見合い(みあい)とは、結婚を希望する男性と女性が、第三者の仲介によって対面する慣習であり、世界各国にある習慣である。』

 決して果たし合いのことを見合いとは言わない。
 ジュリエットとて結婚まではさすがに思っていない。いやできるのであればそれはそれで……いやいやともかくとして!!!!
 アダムの女性にたいする苦手意識を克服するためにこの場を用意したのだ。だいたい邪な思いで。多分100%中95%くらいの割合で。
 はっきょいのこった。見合いがスタートする。 多分逆効果だけど。
「まずは!!!! 親睦を深めるための質問です!!!!!!!!!」
 ジュリエットの初手! 残念アダムは前菜をもりもりたべている!
「単刀直入にお聞きしますけれど、アダムはどのような女性がお好きなのかしら!??????????????」
 ジュリエットのこうげき アダムはスープをがぶのみしている。
「例えば……わ、わ、わ、わたくしのような女性は……そ、そそそ、その、恋愛の対象に……なるのかしら……?」
 じゅりえっとのこうげき かくしんをついた
 みす あだむはにくをたべつづけている
「す、少しばかり興味があったのでお聞きしてみただけですわ! 他意はありませんのよ! 本当ですわ!!!」
 じゅりえっとのこうげき つんでれでごまかしている
 あだむはいいかげんくうのやめろ
「はっ!!!!」
 だん、と両手をテーブルにつき体を前傾しているジュリエットに気づく。なんてこったい! めっちゃくうのに夢中になって聞いてなかった、いやまじで。えっとすこしだけ聞こえた言葉があった。好き? 好き。
 彼女の目の前には折しもきのこのスープ。よしアダムフラグメンツだ!! 英雄のかけらをささげて! 女神に助けを求めて!
 ウィットでホワットでホワイでハウエバーに富んだ会話をするんだ!
「ええと、君はきのこがすきなのかな?」
 思った以上にホワットな会話は出来ていたと思う。ウィットには富んでないけど。

 クリストファー・S・ライランドにエスコートされたフェリシア・R・エルランジュは、淡い水色のドレスを纏っている。
 動くたびにふわふわとひろがってまるで、絵本でみたお姫様のよう。
「似合ってますか?」 
 少女は上目遣いで主人を見上げる。
「もちろんだよ」
 ライランドの次男坊はぽやんと微笑む。其の微笑みが嬉しくてフェリシアは天にも昇る気持ちになる。
 それにしても、周りのドレスの女性たちはセクシーで、何よりも美しい。
 貴族令嬢と挨拶を交わしている主人へ色目を向けられているようにみえる。がるるっと少女騎士はまるで番犬のような目を向けてしまうのは仕方がないというものだ。
「お見合い? いやあその、私にはもったいないといいますか」
 クリストファーが麗しい美女にダンスにさそわれるのをフェリシアは威嚇する。
 番犬少女は忙しいのである。とっても素敵なクリス様を誑かそうなんて! 許せない!
 その視線に気づいたのかそうでもないのか、クリストファーはかたわらの少女に話しかける。
「シア、よかったら僕と一緒に踊ってくれないかな?」
「ふえっ」
 番犬は一瞬にして少女に戻る。頬を薔薇に染めて主人を見上げれば笑顔。
 (きゅーん。クリス様かっこよすぎる)
「さあ、リードは任せて。踊ろう、レディ?」
「あわわレディだなんて!」
 今夜のクリス様はずるいです。いつだってドキドキするけど今日は何倍もドキドキさせるんだもの!
「だめかい?」
「いえっ! もちろん喜んで!」
 足が地につかない。ふわふわして、幸せで、ていうかクリス様近い。
「転んでも助けてあげるから安心して」
 フェリシアは今日の夜のことを一生わすれることはないだろう、いや、絶対忘れてなるものか、そう思った。

†シナリオ結果†

成功

†詳細†

特殊成果
『おみやげ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:グリッツ・ケルツェンハイム(CL3000057)
『おみやげ』
カテゴリ:アクセサリ
取得者:イーイー・ケルツェンハイム(CL3000076)

†あとがき†

参加ありがとうございました。
思い出になれば嬉しく思います。

さて、今回は結果として『謹慎中』がでました。
謹慎中のキャラは特にこれといったデメリットはありませんが
(依頼参加も発言も可能です)
お家で確りと3日謹慎してください。
3日後謹慎中は解かれます。
(RPに活かしてもらえば嬉しく思います)

良くも悪くも行った行動に結果は因果関係として帰ってきます。
行動にはくれぐれもお気をつけくださいませ。
FL送付済